しあわせな愛を。という題名のSSです。だいぶ夜の表現があるとおもうので、閲覧注意だよ〜〜
冬。降り積もる雪は、踏まれて出来た足跡を直ぐに消し去る。さくさくと軽い音を立てながら雪を踏み歩く二人のかげは、そのまま目の前のラブホテルへと吸い込まれていった。
「いやぁ、久しぶりだね、このホテルも。」
「というか、会うこと自体久しぶりじゃないか?いつぶりだっけ?最近俺が仕事忙しかったから二ヶ月ぶりくらい?」
「多分。」
二人はそんな会話を交わしながらコートを脱ぎ、そしてそれをハンガーに掛けると、俺はさっさとバスルームへ向かってしまうのだった。
***
シャワーの音がベッドの方まで響き、なんというかそういう雰囲気を醸し出す中、俺は彼女がシャワーを浴び終わるまで待つ。
お互い二十代半ばを過ぎ、いい加減生涯の伴侶を見つけろと親がぎゃーすか叫ぶようになった頃。俺は彼女と、所謂ネット上の掲示板で出会った。当時俺はネット上で「メンヘラ漁り」と称して、メンタル的に弱そうな女の子を釣ってはいじめていた。まあ話の流れから察していただきたいが、俺のその行為の過程で「面白そうだ」と釣った女の子の一人…それが彼女である。俺はその頃メンタル的に弱っていたこともあり、ソレをしては日々の鬱憤を晴らしていた。そんな日々…灰色の日常とでもいえばいいのだろうか。そんなつまらない日々をぶち壊してくれたのが彼女だった。偶然同じ市内に住んでいたことも手伝って、今では恋人としてのお付き合いをさせてもらっている。
「あがったよ。」
ガチャ、と扉が開き、風呂上がりで真っ裸のままの彼女がこちらへ歩み寄る。そうして俺と彼女は深く唇を重ねると、そのままベッドへと移動するのであった。
***
「いやぁ、本日のセックスもよきよきでしたねぇ。」
「恥じらいというものがお前にはないのか?まあ同感だが。」
なんて軽い口調で話せる恋人は今までにこいつしかいなかった。今がすごく楽しい。そんな今を護りたいと…在り来りだがそう思う。
そう、一生を掛けて護りたい。
***
その夜、私は彼と別れるとさっさと家に帰る。ちなみに、そのホテルから私のうちまでは徒歩でも五分と掛からない程近い。
彼とはネットの掲示板で出会った。偶然同市内に住んでいて…そして意気投合したことから話は始まる。今は交際関係にあり、月に一度位の頻度でデートをしている。彼と出会えてよかったと、少なくとも私は思っていて、彼には感謝してもし足りない。
そんな大好きな彼との日常は、これからも続けばいいな…いや、続けるんだ!なんて頭がお花畑な妄想をしつつ、私は家の鍵を開ける。
「ただいまぁ。」
なんて言ってみても、一人暮らしだからもちろん返事はない。…というか、あったらむしろ怖い。
今日は昼間から彼とデートしていて、そして今は夜の二時。久々だったことも手伝い、時間が長引いた結果だ。
さすがに疲れたので今日はもう寝てしまおう。お風呂はホテルで入ったし、ご飯もホテルで食べた。そう決めると、私は一目散に布団を取りに行って、敷き始める。
布団を敷き終わりそこに横たわると、そのまま睡眠の深い深い奥底に落ちていくように、微睡む脳内で今日を思い出す。あぁ、今日も幸せだったなと。彼の横顔は笑っていた。
***
私がそのことを知ったのは、お葬式が終わった次の日だったらしい。
***
デートから三日程経ち、平穏な日常を満喫していた頃。最近来なかった彼からの着信が入る。
「……っ、はい?もしもーし。」
少しワクワクしながらそう言って電話に出る、と。
「こんにちは、いきなりすみません……。少し、お時間宜しいでしょうか?」
そこから聞こえたのは、いつもの聞き慣れた彼の声ではなく、少し年老いた女の声だった。
***
その年老いた女性…曰く彼の母親は告げる。
「生前はうちの息子と仲良くして下さりありがとうございました。息子は二日前、脳出血で亡くなりました…。」
と。
状況を把握するのに時間が掛かったが、私は彼の母親に言われるがまま、初めて彼の家に呼ばれたのだった。仮にドッキリだとしても、本当だとしても…嬉しくない。というより悲しすぎる、なんて現実逃避しながら向かうのは、隣町の田名部町。今日は私は仕事が休みだったので、速攻その田名部町の彼の家へ向かう。
ピンポーン。鳴らしたインターホンは、私の気持ちなんか知らずに軽快に鳴り響く。がちゃりと戸を開けたのは、先程の母親と名乗る女性らしき人だ。こちらを見ると少し驚いたような素振りをみせるが、直ぐにぺこりと一礼し、家の中へと招き入れてくれた。
「いきなりの御無礼、失礼致しました。」
彼の両親らしき二人と向かい合って座ると、私は、彼の父親にそう声をかけられる。私はと言うと、
「理由、や、色々……聞きたいことがあります。」
と返す。この時は少し動転していたのだろう。
なぜなら、彼の両親のその後ろには、彼の遺影が飾ってあったのだから。
***
「……ということです。」
彼の父親が経緯や葬式でのことを事細かに教えてくれたおかげで、私は涙が溢れて溢れて、止まらなくなっていた。また、その話を聞いて、そして話して、彼の両親も涙ぐんでいた。
「……私は、彼のことが好きでした。彼とお付き合いさせて頂いてました。」
それだけ伝える。すると、彼の母親は目を丸くし、そして合点がいった、とでも言わんばかりの素振りをする。そしてそのまま父親に何かを耳打ちし、少しばかり席を外します、と戸の向こうへ去ってしまった。
泣きながらだからあまり正確ではないが、三、四分程経った時、母親は帰ってくる。なにやら小さな箱を持って。
「貴女に…これを。息子のメモが中に入っていました。それから、プレゼントも。これは貴女の物です。中身を見てしまったのは、ごめんなさいね。」
そう言って渡された箱。開けるのが正直怖かったが、彼の両親からの強い視線を受け、しぶしぶ開ける。
中に入っていたのは指輪とミニレターだった。
***
『やあ、ひさしぶり。これを見てるってことは、俺の目論見は成功したのだろう。……愛する君に、永遠の愛を。』
それだけ書いたレターと、そしてパッと見でも高級ではないとわかる、まあまあな位の値段であろう指輪。
私はこの日は本当に動転していた。目論見?永遠の愛?嘘つき。先に死んで行ったくせに。
「ありがとうございました。失礼致します。」
私は涙を貯めた瞳を閉じ、それだけ言ってその場を去るのが精一杯だった。
……なんて恋愛をしてから何年が経っただろうか。
あれから私は恋愛なんて忘れ、趣味と仕事と、それから酒に耽る日々を過ごしていた。
今も彼の手紙は手帳の中にあるし、指輪は今現在も指にはまっている。
暖かく、そして優しい感情を教えてくれた君が居なくなったことが、私にはもう耐えられなかった。何年経とうと。だからこそ、私は今最後の手紙を遺し、自殺を目論んでいる。
止める?そんな人はいないさ。居たところで、私の決心は変わらないのだから。
***
ビルの屋上の風が気持ちいい。柵に寄りかかって、柵を超えるのをまだ躊躇っているのは、僅かばかりでも未練があるのだろうか?
未練がないなんて誰が言った?
「そりゃあありますよ……未練とかさぁ。」
ずるずると、その場に崩れ落ちる。
彼と見たかった未来は沢山あった。後悔してることもある。悔しいし悲しいし、何より虚しさで私の心は溢れかえるのだ。今もあの時もそれだけは変わらない。
「未練かぁ……まさかね、自分がこんなに未練がましい人間だとは思わなかった。すごく辛いね、これ。」
独り言を呟くと、私は決心する。
そうして柵を飛び越えると、私は空へととびこんだのだ。愛しい彼の胸に飛び込むのと同じように、思い切り。
緑@秋珊瑚の同人創作らいふ
一次創作同人マン・緑@秋珊瑚の吐き溜め
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